[特別対談]テニス前編:瞬発力と持久力が求められるテニスにはメリハリのあるコンディショニングが必要

[特別対談]テニス前編:瞬発力と持久力が求められるテニスにはメリハリのあるコンディショニングが必要

テニスは瞬発力に持久力、戦略的頭脳や長丁場に耐える精神力など、様々な能力が求められます。高いパフォーマンスを発揮するには、日頃からのトレーニングと適切な栄養補給が不可欠。強くなるにつれて遠征も増えるため、心とカラダのバランスを保つメリハリのある生活も求められます。

 

今回は、テニス日本代表選手などのフィジカルコーチを務め、海外ツアーにも帯同する松田浩和さんと、順天堂大学医学部附属 順天堂医院・浦安病院の女性アスリート外来に所属する公認スポーツ栄養士の上木明子さんにインタビュー。テニスに必要な体力トレーニングや練習前後の栄養・水分補給のポイントなどを伺います。

[インタビュー]
ストレングス&コンディショニングコーチ 松田浩和さん
公認スポーツ栄養士 上木明子さん

テニスは「持久力」と「パワー」が必要な持久系スポーツ

――テニスは常に瞬発力を伴った動きを続けるスポーツです。例として女子高生のテニス部員(158cm 53kg、女性)の場合、日頃から高いパフォーマンスを維持するため、日常的に意識したいことを教えてください。

松田:トレーニング、ニュートリション、リカバリー、つまり運動して、しっかり食べて、しっかり休む、の3つが基本です。1週間168時間の中で、部活動に充てられるのはだいたい20時間くらい。残りの約140時間は、自分で様々な選択をしながら生活しなければいけません。競技以外の部分の過ごし方が大切になるので、選手には「なりたい自分になるための選択を、常に意識してほしい」と言っています。

――テニスの技術向上のため、特に意識してトレーニングしたい部位はどこでしょう?

松田:ダジャレみたいですが「テ(手)ニスは足ニス」とよく言います。テニスは手じゃなくて、足でやるスポーツだということ。それほど、下半身の強化が重要です。上半身が重要視されがちなテニスですが、まず基礎として下半身のトレーニングを行います。女子高生の場合、身長の伸び率によって自重トレーニングかウエイトトレーニングかは変わってきますが、主にランジやジャンプを中心にしたメニューが有効です。

自体重でフラフラしていては、「走って止まる」というテニスの動きをした時にすぐ膝を痛めてしまいます。一方で、しっかり下半身を鍛えていれば、技術が必要な要素を体力が補ってくれる。例えば、トレーニングでジャンプ力を上げることで、高い打点からの速いサーブが実現できるようになる。するとサーブを早くするために何回も練習して、肩を痛めるということが減ります。

――学生だと特に栄養補給は重要ですが、毎日のコンディション維持のため欠かせない栄養や意識したいことはありますか。

上木:高校生といっても、まだ成長期で体が発達しきれてないところもあります。ベースとして、エネルギーがしっかり満たされた状態で練習をしてもらいたいですね。この時期に必要な特定の栄養素を知りたがる方が多いですが、まずはエネルギーを満たすことが最優先。エネルギー不足だと、プロテインなどのサプリメントを摂っても十分な効果が見込めません。1日3食と補食を組み合わせて、充分なエネルギーを摂ることを意識しましょう。各学校のルールに合わせて、タイミング良く補食を摂るようにアドバイスしています。

――練習前や練習中・終了後はどういった栄養補給が理想的ですか?

上木:やはりスポーツのエネルギー源は糖質です。選手によって、咀嚼できるものが食べたい選手にはおにぎり、固形物だと満腹で動きづらい選手にはゼリー飲料やスポーツドリンク、果汁100%ジュースなどを勧めています。

栄養補給のタイミングは、選手それぞれ違います。学校の部活の場合はそのままコートへ移動すればいいですが、クラブチームに通うケースでは、移動中にゼリー飲料を飲んで、到着したらスポーツドリンクを飲んでから練習するといいでしょう。状況は様々ですが、栄養補給は絶対必要。生活に合わせて、いかにエネルギー補給できるかを見極めることが大切です。

貧血予防のためにも、「糖質」と「たんぱく質」の摂取は重要

――テニスの試合は長時間になる場合もあります。集中力を維持するのは大変ですが、高いパフォーマンスを長く発揮するために摂取した方がいい食材はありますか?

上木:テニス選手は、やはり持久力が鍵になりますね。試合中はエネルギー切れにならないよう、糖質を切れ間なく補給することが大切です。
プレーが中断したときにサッと飲めるように、糖質入りのエネルギーゼリーなどを準備しておきたいですね。

また、ジャンプで着地した際の衝撃で赤血球が壊れやすく、テニスは貧血になることもあります。とくに成長期の女子選手は貧血気味なことも多く、それが改善しただけで別人のようにパフォーマンスが上がるケースもあります。
「貧血」というと鉄不足が原因だと思われがちですが、アスリートの場合はエネルギーやたんぱく質不足で貧血になっているケースも多い。たんぱく質と鉄の両方が満たされていることが大事ですね。選手が体調不良を感じたときに、指導者や保護者に相談できるような関係性が築かれていると、すぐに対処できます。

――選手一人ひとりに合わせて指導の仕方も違うということですね。

上木:教科書的なスタンダードな部分は同じですが、テニスは個人競技ということもあり、人によって指導の仕方も全く変わってきます。

――貧血もそうですが、月経不順など女性アスリートならではの悩みもあるかと思います。その辺りで指導されていることはありますか?

上木:月経不順や貧血がある場合、食事量が足りていないケースも多く見受けられます。
まずは食事の量を増やしていきましょう。食事量を一度に多く食べられない選手もいるので、場合によってはあぶら(MCTオイルなど中鎖脂肪酸油だけを取り出した食用油)などを利用することもあります。
食事の内容と量を安定させていくと、カラダだけではなくメンタルの安定にもつながっているように感じます。

松田:年頃で太るのを気にして、意識的に食べない女子選手も気になります。トレーニングをして筋肉が増えているから、除脂肪体重が増えるのは当然。数値を気にして食べる量を減らすと、鉄分も不足するため、貧血や月経不順を引き起こしてしまいます。

――どう指導したら、女性選手がバランスよく食事を食べられるようになるでしょうか?

上木:中高生になると女性はカラダが変わって、体脂肪がつきやすくなります。成長段階だから当然のことです。体型を気にしてご飯を減らすと、むしろ代謝が下がって太りやすくなります。さらに、「おやつ食べたからご飯を減らす」というような悪循環によってエネルギー不足を招くことになります。

そういう選手に対しては、まず運動量と食事量のバランスを確認します。
そして、必要な食事量なら食べても太らないことを納得してもらい、主食を増やしていくのです。抵抗がある場合は、20g、30gと少しずつ量を増やす。日頃から運動している選手は、主食を増やせば代謝も早く上がりやすいです。メンタルも安定して、練習にも積極的に参加できるようになります。さらに、疲れにくく、動きやすくなってパフォーマンスも良くなっていく。そんな成果を実感できると、食べた方がいいと気付くわけです。
そうしてきちんと運動量に見合った食事を摂るようになれば、体脂肪が減って筋肉量が増え、ますますパフォーマンスが向上します。

精神の持久力も大事なテニスには、励まさない指導も必要

――長時間の試合で集中力を維持するために、メンタル面で指導されていることはありますか?

松田:テニスの場合、長いラリーを戦っても、ポイントが獲れないときって結構ありますよね。そういう時は、やはり心が折れそうになります。それでも「もう1回、もう1回」と、やり続けるのがテニス。そのため、トレーニングの時から妥協なく何回も黙々と行うことが大切です。

また、テニスは試合中にトレーナーが応援できないスポーツです。他のスポーツでは周りが声援を送りますが、テニスはポイントが決まるまで声を出せません。だから選手には、「試合の時に鼓舞するのは自分自身」だと伝えています。冷たいと思われるかもしれませんが、練習中やトレーニング中もあえて応援しないで、終了後に「よくやったね」と声をかけています。

――テニスは、夏場の暑さへの対応も必要です。暑さ対策・水分補給の面では、どういう指導をされていますか?

上木:テニスに限らない話ですが、水分を摂る習慣がなく、脱水傾向がある高校生アスリートは多いです。特に夏場は、練習前・練習中・練習後は必ず水分補給をしないと、すぐ脱水症状になってしまいます。1日の水分補給のノルマを決めて、練習前には具体的にどのぐらいの量をどのぐらいの時間をかけて飲むなど、計画的な水分補給を実践してほしいですね。

理想を言えば、発汗量に合わせて水分を調整できるようになるといいです。テニスは暑さの影響を直接受けるスポーツです。練習前後に体重を測って発汗量を調べるなど、水分補給にもっと気を配ってもらえると嬉しいですね。

『前編』では、普段のトレーニングや日常的な食事で意識したいこと、主食と水分補給の重要性を紹介しました。 『後編』では、試合に向けてのコンディショニングと当日と翌日のリカバリー方法、一日に必要なエネルギー・栄養素をカバーする模範的な食事メニューをご紹介します。

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松田浩和 まつだひろかず

松田浩和 まつだひろかず

DRESS BODY PROGRAM代表
CSCS,NSCA-CPT,JOC医科学強化スタッフ

テニスナショナルチームフィジカルコーチとしてトップ選手への指導やツアー帯同を行う他、地域トレセンなどでは育成年代のスポーツ傷害予防にも従事した(2016~2021)。現在はテニスを中心に多くのプロアスリートを指導しながら、順天堂大学院医学研究科にて「呼吸とコンディショニング」を研究している。

上木明子 うえきあきこ

公認スポーツ栄養士 管理栄養士

病院での臨床経験を経て、コールセンターや特定保健指導のプログラム開発など栄養サービスの開発運営に関わったのち独立。現在は大学病院の女性アスリート外来にて専属栄養士としてアスリートサポートを実施する。スポーツ栄養学のスキルを働く世代や女性に応用し、ライフスタイルに合わせたコンディショニングを得意とする。

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