[特別対談]バドミントン前編:パワー×持久力が必要なスポーツのコンディショニング

[特別対談]バドミントン前編:パワー×持久力が必要なスポーツのコンディショニング

バドミントンは長いラリーや前後左右の動きが多く、持久力が必要となるハードなスポーツ。試合中はたえず集中力を持続させなければならず、メンタル面の安定も重要な要素です。練習や試合時に自分の実力を発揮するために、日々のトレーニングや食生活の充実が欠かせません。

 

今回は、長年にわたるバドミントン指導経験を持つストレングス&コンディショニングコーチの酒井崇宏さんと、自身も長く選手を続け「バドミントンがうまくなりたいから栄養士になった」という公認スポーツ栄養士の佐々木久美さんにインタビュー。選手が普段の生活で気を付けるべきことや疲労回復のポイント、トレーニングの効果を高めるための考え方などを伺います。

[インタビュー]
ストレングス&コンディショニングコーチ 酒井崇宏さん
公認スポーツ栄養士 佐々木久美さん

バドミントンは「持久力」と「パワー」の両方が必要な持久系スポーツ

――バドミントンは常に瞬発力を伴った動きを続けるスポーツであり、体力作りが必須です。例として女子大生のバドミントン部員(161cm 53kg、女性)の場合、練習ではどういったことを意識すると良いですか?

酒井:バドミントンは、パワー持久系のスポーツに分類されます。例えば、相手コートにシャトルを落とすために高く跳んでスマッシュを打ったり、シャトルを拾うために素早く動いたりする。それを試合中ずっと続けなければなりません。そのためには「パワー」と「持久力」が必要なので、筋力トレーニングや持久力トレーニングを通して高めることが重要です。

ただ、パワーと持久力は同時に高めにくい能力でもあります。全体的なパフォーマンスを上げるためには、試合日から逆算して「この時期はパワー強化」「この期間は持久力」など優先順位をつけて計画的に取り組むことが重要ですね。

――日常的な生活習慣において、パフォーマンスを向上させるためのアドバイスなどはありますか?

酒井:バドミントンの練習をはじめる前に、日常を過ごしているカラダから競技に適したカラダへ切り替えることが大切だと思います。例えば、勉強やデスクワークにより背中や股関節が曲がった状態で長時間いると、一時的にカラダがバドミントンに適さない状態になってしまう恐れがあります。

また、座りすぎは「第二の喫煙習慣」と呼ばれるくらい健康に悪影響があるとも言われます。バドミントン選手のカラダにとっても、同じ姿勢をとり続けることは望ましくないため、座り続けた後はストレッチやエクササイズを行って、きちんと動けるカラダに戻すことが必要ですね。

――毎日の食事・エネルギー補給はどうマネジメントすると良いですか。

佐々木:どのスポーツでも当てはまる事ですが、まずは日常的に栄養バランスの良い食事を摂る事が重要です。選手の中にはたんぱく質をしっかり摂らなければいけないと意識している人は多いですが、それに比べて糖質の摂取が足りていないなど、栄養の偏りがある選手も結構います。バドミントンはスピード・パワーが必要な競技ですが、その一方でヘアピン(ネット際から相手コートのネット際へ落とす短いショット)など繊細なタッチのショットもあり、ラケットコントロールの技術や動体視力、思考力なども必要です。良いコンディションを維持しながら競技力を上げていくために、たんぱく質・糖質・脂質・ビタミン・ミネラルの五大栄養素をまんべんなく摂る食事を意識して欲しいですね。

――大学生だと食事時間が限られてきますが、練習前のエネルギー補給や、練習中・終了後はどういった方法で栄養を摂ればいいですか?

佐々木:エネルギー源であるグリコーゲンが充足した状態で練習に臨むことが大切です。練習までに時間がある場合の補食としては、おにぎり・カステラ・バナナなど、炭水化物の中でも消化吸収が速く、携帯しやすい食品がおすすめです。

練習直前や練習中は、ゼリー飲料やスポーツドリンクで糖質を補うと良いでしょう。特に夏の屋内練習では、熱中症対策として水分・塩分も補給できて良いと思います。長期の脱水は食欲不振も招きますから、夏季のコンディショニングという意味でも非常に大事です。

練習後は早く疲労回復するために、補食として糖質とたんぱく質を併せて摂ると良いです。大学生の場合、食事時間の確保や食事の準備が難しい場合もあるので、鮭おにぎりや肉まんなど、コンビニでも買う事ができて手軽に「糖質+たんぱく質」が摂れるものを活用すると良いですね。

膝やアキレス腱の状態を良く保つために気をつけたいこと

――腕を思い切り伸ばしたり、ジャンプしながらラケットを振ったり、バドミントンにはボディバランスが不可欠です。バドミントン特有の動きにあわせた筋肉強化について、どんなことをアドバイスされていますか?

酒井:トレーニング自体はベーシックな種目を指導しています。バドミントン選手は小さい頃からずっと利き手でラケットを持っていたり、同じ側の足で踏みこんだりしているので、筋力の左右差が大きい場合があります。だから最初はベーシックなエクササイズを通して、その差を小さくしていきます。

重り(ダンベルやバーベルなど)を使ったトレーニングでは重量を少しずつ増やしますが、あまりに筋力の左右差が大きいとそれがボトルネックになって負荷を増やせません。そうならないためにも、早い段階で著しい左右差を解消しておくことが重要だと思っています。

――ハードなトレーニング時期に合わせた食事のポイントは何ですか?

佐々木: 食事のタイミングも大事です。高強度のトレーニング後は筋細胞に傷がついていて、その修復のためには糖質とたんぱく質が必要になります。トレーニング後、可能なら30分以内のできるだけ早いタイミングで糖質とたんぱく質を摂るようにしたいですね。トレーニング終了から次の食事までの時間が長いようであれば、ぜひ補食を活用してください。

――バドミントンに必要な筋力をつけるうえで、適切な栄養は何でしょうか?

佐々木:ハードな練習をこなすことで筋力がつくわけですが、そのトレーニングに耐えられるカラダを作るのは「バランスの良い食事」です。つまり主食・主菜・副菜・牛乳や乳製品。果物が揃った食事ですね。特に意識してほしいのが、果物、海藻や種実、大豆製品など、学生の食生活で不足しがちな食品です。食事で摂るのが難しければ、干し芋やドライフルーツ・ナッツなどをおやつにしてビタミンCやミネラルを補いましょう。保存が効くきな粉を常備し、飲み物やヨーグルトに混ぜて摂るのもおすすめです。

また、バドミントンは膝やアキレス腱の怪我も多く、特に下肢の弱い女子選手はそのリスクも高まります。食事量の不足や偏りがあると、怪我をしやすく回復もしにくいので、トレーニング量や強度に応じた食事量が摂れているか確認してみると良いですね。また、“ホールフード”と言われる、食べ物を丸ごと摂る方法もいいです。例えばお魚だと、切り身ではなく小魚、鶏肉なら骨付きのものを選ぶと、カルシウムやコラーゲンなどの骨作りに役立つ成分を摂取出来ます。

――コラーゲンの話が出てきました。バドミントンでは関節を柔らかくしておくこと、可動域を広げておくことは、やはり重要ですか?

酒井:ある関節の可動域が狭いと、それを補うために他の関節を動かすようになります。例えば、肩の可動域が狭いと腰や肘を余計に動かして負担がかかるかもしれない。そうならないためにも、可動域を適切に保ち全体的にバランスよく動ける状態をつくることが大切です。

バドミントンは緊張感がある競技。ストレス緩和も大切

――急加速やストップからのジャンプなど、怪我につながる動作も多いと思います。怪我をしないための対策として、心がけることを教えてください。

酒井:人によってカラダが硬い人もいれば、カラダは柔らかいけど筋肉が少ない人もいます。その人にとってどこが問題なのか見極めることが大事ですね。例えば、可動域が適切でないなら、ストレッチをして広げてあげる。筋力がなくて安定しないならトレーニングをするなど、自分に足りないものを埋めていくことが必要だと思います。

――やはり自分のベストパフォーマンスを発揮するためには、メンタル面のコントロールも重要ですか?

佐々木: バドミントンは非常に緊張感がある競技。例えばサーブを打つ時って、すごく緊張しますよね。「良いショットを打とう」と思えば思うほど緊張して、それがストレスにつながることもあります。また頭脳戦のスポーツなので、「いかに相手の思考の裏をかくか」と考えることによる脳の疲労も大きいよう思います。

こうしたストレスを引きずらないように、食事を緊張の「オフ」スイッチとして使って欲しいと思います。普段の食事で「これ美味しいな」「この食感が好きだな」など、食べ物の味や香りなど対する感度を高めておくと良いですね。そうすると、ストレスがかかる場面でも食事で気分転換が図れるようになり、長期間にわたる遠征でも疲弊することが少なくなるのではないかと思います。

また試合では、会場により空調の風の影響や照明の具合でシャトルの落ち方が読みにくかったりします。そうした不安定さはストレスの元にもなる。ストレスに負けず、集中力を切らさないためにも、脳のエネルギー源である糖質を少量ずつで良いのでこまめに摂ると良いでしょう。

『前編』では、普段のトレーニングや日常的な食事で意識したいこと、ハードなトレーニング時に注意したい点をご紹介しました。

『後編』では、試合に向けてのコンディショニングと試合当日・翌日のリカバリー方法、一日に必要なエネルギー・栄養素をカバーする模範的な食事メニューをご紹介します。

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酒井崇宏 さかいたかひろ

酒井崇宏 さかいたかひろ

ストレングス&コンディショニングコーチ

1987年、神奈川県出身。龍谷大学スポーツ・文化活動強化センター所属。東京都北区健康増進センター、明治大学男子バスケットボール部、パナソニックインパルスを経て2017年から現職。龍谷大学ではアメフト、ラグビー、バドミントンを中心に複数のスポーツをサポートしている。保有資格はNSCA-CPT、TSAC-F,⋆D。

佐々木久美 ささきくみ

佐々木久美 ささきくみ

公認スポーツ栄養士 管理栄養士
公認中級障がい者スポーツ指導員 調理師 栄養教諭

1966年、島根県出身。自身もジュニア期からバドミントンをはじめ、高校総体・シニア全国大会等出場経験多数。現在は島根県内のB.LEAGUEチームの他、女子プロゴルフ・バドミントン・ライフル射撃等の様々な競技の栄養サポートに携わる。また、地域のNPO法人等と共同で団体「あそびばキッチン」を立ち上げ、「食や運動を通しての地域のコミュニティづくり」の活動を行っている。

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