パフォーマンス発揮につながる食事・栄養(パートⅡ:持久力アップと糖質・脂質)

パフォーマンスを発揮するために大切な食事・栄養とは(パートⅡ)

「パフォーマンスを上げたい!」運動愛好家からトップアスリートまで、多くのスポーツ実施者が思い描いていることではないでしょうか。ここでは、パフォーマンスのうち、「パワー」と「持久力」の発揮という点に対して、食事や栄養がどのように関わるのか、どのように取り組むことが必要であるかを学んで行きましょう。

2. 持久力の発揮のための食事・栄養

パフォーマンスを発揮するために大切な食事・栄養とは(パートⅡ)

1)エネルギー源としての糖質とその摂り方(運動時の糖質補給とカーボローディング)

全身持久力(持久力)は、いわゆるスタミナや粘り強さと言い換えられ、スポーツ競技で必要な能力の一つです。マラソンのような長時間運動、サッカーのようなストップ&ゴーや長いランを繰り返すような競技では、この持久力がパフォーマンスを左右する要因となります。

持久力には、いろいろな要素が関わりますが、その一つとして、エネルギー源の枯渇があげられます。運動時のエネルギー供給源は、運動強度や時間によって変化しますが、主要なエネルギー源として糖質が利用されます。糖質は、血液中の血糖、筋肉中や肝臓中のグリコーゲンとして多く蓄えられ、運動時に必要な分だけエネルギー源として利用されます。体内に貯蔵している糖質は、運動によって減少し、糖質の減少はパフォーマンスの低下や疲労の原因となります。

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体内に貯蔵できる糖質は少なく、エネルギーとして考えると2,000kcal程度と言われています。一方で、脂質は体脂肪として貯蔵されており、エネルギーとして考えると約65,000kcalと言われています。糖質も脂質も体重や筋肉量等によって貯蔵量は変化しますが、糖質の貯蔵量が少ないことは明白なのです。

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つまり、糖質はスポーツ活動によって利用され枯渇していくため、利用した分を補給し、回復させる必要があります。(イメージは自動車のガソリン: 給油しないとガソリンがなくなり走行できなくなる)

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運動時、より良いパフォーマンスを発揮するためには、どのような糖質の補給の仕方が良いでしょうか?その目安が以下のとおりです。

<運動時の糖質補給の目安>
運動の1~4時間前までに体重1kgあたり1~4g(体重60kgの場合60~240g)
運動中1時間あたり30~60g (運動時間1.0~2.5時間の場合)

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糖質も摂取してからすぐにエネルギーとして利用されるわけではないため、「主運動 (試合やレース) の何時間前に何を食べるか」が重要です。したがって、消化吸収の時間を考え、運動開始に近づくに連れ消化が早く(必要なく)、吸収が早いものにすると良いでしょう。例えば、運動開始3、4時間前は固形物、運動開始1、2時間前は消化が早い固形物、運動開始前は液体やゼリーのように考えてみると良いでしょう。

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糖質は重要なエネルギー源ですが、たくさん摂取すれば良いというわけではなく、摂取量やタイミングを考える必要があります。自分自身の行っている競技の特性を考えて、糖質補給の方法を設定すると良いでしょう。

スポーツ栄養における糖質摂取の手法として、「グリコーゲンローディング」があります。グリコーゲンローディングは、目標とするレースや試合数日前から糖質の割合を増やした高糖質食を摂取し、筋グリコーゲン量を通常よりも大幅に高めることで、パフォーマンス向上を狙う手法です。
最新のグリコーゲンローディングは、1週間前から4日前までを糖質を適度に含む食事とし、3日前から高糖質食 (1日の総エネルギー摂取量のうち、糖質を70%以上、脂質15%以下、たんぱく質15%前後とする) に切り替えます。以前は、脂質の割合を増やした高脂質食を摂取する期間を設けていましたが、最新の手法では高脂質食は摂取しません。

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グリコーゲンローディングは、どのスポーツにも有効なのではなく、1時間以上または20km以上走行するような競技種目に対して有効とされています。したがって、グリコーゲンローディングを行う前に、自分自身が行う競技において、必要であるかどうかを考えましょう。また、グリコーゲンローディング実施後は、筋肉にグリコーゲンが貯蔵されるため,その分の体重が増加します。体重の増加が見られれば、グリコーゲンが上手く貯蔵されている証拠となりますが、体重がパフォーマンスに影響してしまう、試合前に体重を増やしたくないなどがあれば、無理に実施しなくても良いでしょう。

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持久力が関わるスポーツでは、糖質の摂取量やタイミングが重要であることの基本は理解できたのではないでしょうか?自分自身に合った糖質の摂取方法を見つけ、実践していきましょう。

※運動前、運動中の糖質補給のヒントはこちら

2)エネルギー源としての脂質

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運動のためのエネルギー源として、主に糖質と脂質が使われます。ここでは脂質の重要性について考えてみましょう。

脂質は、エネルギー源、細胞膜の主要な構成成分、ホルモンの原料となるカラダに重要な栄養素です。脂質の種類として、脂肪酸、中性脂肪、リン脂質、コレステロールなどがあります。エネルギー源として利用されるのは、脂肪酸です (中性脂肪は、グリセリンと3つの脂肪酸で構成されており、代謝行程を経て脂肪酸がエネルギー源として利用されます)。

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脂質は、1gあたり9kcalのエネルギーを持っており、糖質やたんぱく質 (4kcal/g) よりもエネルギー密度が高い栄養素です。脂質をエネルギー源として利用するためには、十分な酸素が必要なため、高強度の運動よりも持久系競技のような中強度以下の運動でエネルギー源として利用されます。

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カラダにおける脂質といえば、「体脂肪」ですが、体重60kg、体脂肪率15%の場合で約65,000kcalが貯蔵されています。したがって、グリコーゲンと異なり、1回の活動で大幅に枯渇するということはありません。脂質は分解してエネルギーを生み出すまでの行程が少し複雑なので、糖質よりもエネルギー源として利用するまでに時間がかかりますが、持久系の競技では、脂質からうまくエネルギーを作り出すことがパフォーマンス向上に必要となります。

多くのアスリートは、脂質は体重増加につながりやすく、なるべく避けたほうが良い栄養素としてとらえているのではないでしょうか?しかし、脂質をむやみに制限してしまうと、ホルモンや細胞構成の原料の不足にもつながるため、カラダに不調をきたすことも考えられます。例えば、食事管理を厳しく行っている方で肌の調子が悪いなどの症状がある方は、脂質が不足している可能性も考えられます。体重管理のために食事制限をしているなどの場合を除けば、極度に不足するような栄養素ではありません。しかし、意図せず摂取しすぎると体重増加につながるため注意が必要です。

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脂質からのエネルギー供給を増やす方法として、高脂肪食を長期間摂取する手法の研究が行われていますが、様々なリスクがあるため、専門家の指導なく実施することはあまり現実的ではないかもしれません。一方で、持久系トレーニングを実施していると、エネルギー産生に関わるミトコンドリアが増加し、脂質のエネルギー代謝量を増加させることがわかっています。脂質からのエネルギー供給を増やすためには、適切な脂質摂取と持久系トレーニングの実施が重要となるでしょう。

他方、エネルギー源として利用されやすい脂質もあります。「中鎖脂肪酸」はエネルギー源として利用されやすく、体脂肪に変換されづらい特性を持っています。しかし、食品に含まれる脂肪酸の多くがエネルギー源として利用されづらい長鎖脂肪酸 (消化吸収、代謝に時間を要する) であり、中鎖脂肪酸を豊富に含む食品は多くありません。

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中鎖脂肪酸を含む食品として、ココナッツオイル、牛乳などが挙げられます。中鎖脂肪酸とパフォーマンスの関連を検討した研究はありますが、その効果を十分に得るためには、食事の内容や用いる食品の種類を適切に選択する必要があり、適用可能なスポーツ競技が限られることが指摘されています。
日常的に中鎖脂肪酸を摂取するのであれば、牛乳・乳製品の摂取、飲料にココナッツオイルを少量加える程度に留めましょう。「脂質」であることには変わりがないため、多量に摂取することは避けたほうが良いかもしれません。

以上、脂質に関する内容でした。脂質は、簡単に不足しませんが、持久系運動に関わり、パフォーマンス発揮に重要な栄養素です。日常の食事から摂取する脂質の量や質について、考えてみましょう。

※持久系運動時の脂質利用を高めるヒントはこちら

〈監修者〉佐々木 将太(ささき しょうた)

佐々木将太(ささき しょうた)
北海道文教大学 人間科学部 健康栄養学科 講師。
京都府立大学大学院生命科学研究科応用生命科学専攻博士後期課程単位取得退学 (2011) 、博士 (学術) 、帯広大谷短期大学助教を経て、2019年より現職。公認スポーツ栄養士、管理栄養士。月刊スキーグラフィック「スキーヤーのための栄養学」監修。

これまでにスピードスケート、アイスホッケーに取り組むジュニアおよび女子アスリートを中心に栄養サポートを実施。現在は、管理栄養士を目指す学生と高校野球および陸上競技選手に栄養サポートを実施中。展開の途上ではあるが、寒冷環境で行うスポーツに特化した栄養摂取方法を模索した研究にも取り組む。スポーツ栄養分野の研究と現場の架け橋を目指す。

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