[特別対談]バスケットボール前編:パフォーマンス向上のカギは「自分にとってのベスト」を知ること

[特別対談]バスケットボール前編:パフォーマンス向上のカギは「自分にとってのベスト」を知ること

NBAやWNBAで活躍する日本人選手も登場し、近年人気が高まっているバスケットボール。常に動き続けながら正確なシュートやドリブル、相手との駆け引きを行うには、体力・集中力の維持が欠かせません。パフォーマンスを発揮するため、日々の体力作りや栄養補給が重要です。

 

今回は、NBAチームのトレーナーとして活躍後、東京医科歯科大学にてトレーニング法の開発・研究・アスリート指導を行うアスレティック・トレーナーの山口大輔さん(DICE)と、インカレ(全日本大学バスケットボール選手権大会)6連覇を果たした東京医療保健大学女子バスケットボール部の指導経験をもつ公認スポーツ栄養士の猿田綸咲さんにインタビュー。バスケットボール選手が日常生活で意識したいことや、ハードなトレーニング時のアドバイスを伺います。

[インタビュー]

アスレティック・トレーナー 山口大輔さん(DICE)

公認スポーツ栄養士 猿田綸咲さん

高いパフォーマンスを維持するために「食事」と「持久力」が欠かせない要素

――試合中の運動強度が高いバスケットボールは、日常的なスタミナ強化が重要だと思います。例として女子大生選手(175cm 68kg、女性)の場合、練習時から高いパフォーマンスを維持するために、意識したいことを教えてください。

DICE:やはり食事は日常的に意識したいところです。バスケットボール選手は太ったらダメというよりは、パフォーマンスを発揮しやすい体重であることが大事。食事や栄養に対する基本的な知識を持ったうえで、食事とトレーニング量をコントロールすることが大切だと思います。

――トレーニング面でいうと、例えば競技における持久力評価はどう行っていますか?

DICE:「Yo-Yo(ヨーヨー)テスト」という、どのくらい走り続けられるかを測るテストが一般的ですが、僕がいた頃のSan Antonio Spurs では「Fives(ファイブス)」というベースラインからベースライン(コートの端から端)28mを5往復、計280mを60秒で走るテストを行っていました。60秒で走って60秒レストを5セット、すべて60秒間でクリアできたら、最低限の心肺機能は持っていると判断できます。タイムは成人男性の設定なので、女子選手だともう少し遅くてもいいと思います。

――持久力を高めるために、栄養面ではどんな意識が必要ですか? 学生であれば授業後の練習に加えて朝練がある場合も多く、計画的な栄養補給が必須になります。エネルギー切れを起こさないために心がけた方が良いことを教えてください。

猿田:まず朝に練習やトレーニングがある場合、その前に何かしらエネルギー補給することは、マストだと伝えています。起きてすぐ、飲まず食わずの状態で朝練に行ってしまうと、怪我のリスクや集中力低下に繋がります。そのため、まずは「時間がなくても最低限、スポーツドリンクを飲むことから始めよう」と指導することから始めています。それがクリアできたら、次はエネルギーゼリーやバナナを摂っていこうなど、徐々にステップアップした指導を行います。

――練習前と練習中、そして練習後はそれぞれどういった栄養補給をしたら良いですか? 

猿田:授業の休み時間には補食を摂ってほしいですね。例えばお昼ご飯が12時前後で、午後練習が夕方18時以降から始まるとすると、食事(お昼ご飯)からトレーニングまでの間隔が空きすぎてしまいます。そのため授業間の休み時間、16時前後に、エネルギーが高いあんパンやおにぎりなど、炭水化物を主に摂取するのが良いでしょう。そしてトレーニングが始まる直前は、スポーツ飲料や即効性のあるエネルギーゼリーなどで補うのが理想です。

練習後に個別のワークアウトなどがあって夕食が遅くなる場合、先におにぎりを摂っておいて、夕飯はおかずだけ(できれば消化のよいもの)にするなどの工夫が必要になりますね。

――エネルギーを効率よく使うために、栄養面でアドバイスしていることはありますか?

猿田:アミノ酸のシスチンを摂取することでエネルギー代謝が良くなるということを聞いてから、選手にも摂り入れるようにアドバイスしています。ただ、前提としてまず食事を改善することを第一に取り組んで欲しいです。海外遠征の時や、練習時間の関係によって食事で補えない場合は、サプリメントやプロテインも活用していくと良いと思います。

強化期はエネルギーが高いものを摂取して、筋肉をリカバリーさせる

――アスレティック・トレーナーの観点から、バスケットボール選手の健康管理や怪我予防など、普段選手にアドバイスしていることを教えてください。

DICE:まず、自分の本音をちゃんと言えるようになることですね。日本の選手は言われたことをやる習慣が身についていて、我慢しやすい傾向がある。コーチとの関係やトレーナーとのコミュニケーションなど、何でも言える環境作りが一番大事です。

なぜかというと、トレーニングでは「これが正解」という型に当てはめるよりも、自分のカラダが気持ちよく動かせるポジション・姿勢を身につけるのが重要だから。トレーニングの目的は効率の良いカラダの使い方を身につけて、速く・強く、かつ怪我のしにくい動作ができるようになること。納得がいかなくても指導者から言われたからという理由のみで我慢してやるのではなく、自分が無理なくカラダを使えるポジションがどこなのか、を自分で理解して行うことが大切です。自分で理解し、納得がいけばトレーニングは継続しやすくなり、カラダも変化していきます。

――バスケットボールではスピード、敏捷性、ジャンプ力、パワーなどたくさんの要素が必要とされます。鍛えるべき筋肉やおすすめの筋肉トレーニングなどあれば教えてください。

DICE:どの筋肉を鍛えるという指導はあまりしません。動く時に筋肉を一つひとつ意識するわけじゃないので。バスケットボールは動きの中での切り返しが重要なスポーツ。走る動作の中でも、コート内で周囲選手との駆け引きがあるので、止まる動作や切り返す動きはよく練習します。その際に大事なのは、重心を低く保つこと。次の動きにつながりやすくなるので、腰を良い位置まで落とし、そこから自由な方向に動けるようにするのが、怪我予防の面でも重要だと捉えています。

そういった意味で、「相撲」は誰もが行いやすいトレーニングのひとつとして有効だと思っています。腰を落として、地面の力を相手に伝えるという練習をすることで、動きの連動性が身につきやすくなる。いつもと違うトレーニングとして取り入れてみるのもおすすめです。

――例えば、ふくらはぎの筋肉を鍛えたらよく動けるという話ではないわけですね?

DICE:ないですね。股関節と膝と足首の関節が、うまく連動するのが大事。専門用語では『トリプルエクステンション』とも言いますが、足首、膝、膝関節を同時に伸び縮みさせることで、地面からの反発力を活用できたり、ボールにパワーを伝えられるようになるので、全てを連動させて動かすことが高いパフォーマンス発揮につながります。

――食事面について、リーグ戦が始まる前の強化期の食事で意識すべきことを教えてください。 

猿田:トレーニング量が多い強化期、特に夏場だと女子選手は体重が落ちやすいので、エネルギー摂取量を、トレーニング量に見合うよう増やしていく必要があります。ただ、一度に多く食べるのが難しい場合、補食の回数を増やしたり、エネルギーの高い飲料を追加して摂取したりする工夫はしています。

――強化期の筋肉のリカバリーのために、摂取すると良い栄養素を教えてください。

猿田:試合中はグルタミン入りの飲料の摂取をおすすめしています。やはりスタートから出ている選手はプレータイムが長くなり、最後の方でバテてしまうので、ハーフタイムにグルタミンの濃度が高い飲料を摂ることが有効です。夏場の強化期も、トレーニング中にグルタミン入りの飲料を摂取して、体重が落ちないように指導することがあります。

――ポジション特性によって食事メニュー(量や栄養素)の違いなどあるものですか?

猿田:ポジションというよりも、体格やトレーニング量によって調整する方が良いでしょう。寮生活などでおかずの内容を変えるのは難しい場合、ご飯の量を調整して、自分に必要なエネルギー量をしっかり摂る工夫をしてほしいですね。

『前編』では、普段のトレーニングや日常的な食事で意識したいこと、強化期に注意したい点をご紹介しました。

『後編』では、試合に向けてのコンディショニングと当日と翌日のリカバリー方法、一日に必要なエネルギー・栄養素をカバーする模範的な食事メニューをご紹介します。

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山口大輔 やまぐちだいすけ(DICE)

東京医科歯科大学 スポーツサイエンスセンター 副センター長/アスレティック・トレーナー

福岡県出身。東京医科歯科大学スポーツサイエンスセンター講師。愛称はDICE(ダイス)。NBAサンアントニオ・スパーズで7年間勤務、現在は東京医科歯科大学にてトレーニング法の開発・研究とアスリートの指導を行う傍ら、「アシックス・スポーツ教育プロジェクト」の傷害予防エキスパートとして学校教員や部活動における運動指導に力を入れている。

猿田綸咲 さるたつかさ

東京医療保健大学 女子バスケットボール部 公認スポーツ栄養士、管理栄養士

東京家政学院大学卒業後、日本大学大学院修了(修士課程)。卒業後は、管理栄養士養成大学に勤めつつ、インカレ6連覇(2023年2月現在)を誇る、東京医療保健大学女子バスケットボール部のスタッフとしても活動。選手たちの毎月の献立調整や、試合・遠征時の食環境整備も行う。女性アスリートの鉄・栄養状態の研究やコンディショニングも行っている。

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