ピリオダイゼーション(期分け)に合わせた食事と栄養(パートⅠ:準備期)

ピリオダイゼーションとは

試合に向けて、コンディションやパフォーマンスを最もよい状態に合わせるために、年間のトレーニングをいくつかの期間に分けて、それぞれのトレーニングの種類や量、強度を効率よく組み合わせ、実施することをいい、「期分け」ともいいます。

 

ピリオダイゼーションは、主に「準備期」、「試合期」、「移行期」の3つに区分され、準備期はさらに「一般準備期」と「専門準備期」に分けられます。高校野球の場合には春から夏と秋が、大学生の場合は夏のインカレが「試合期」となり、その前が準備期、後が移行期となるイメージです。

 

スポーツ栄養は、「何を(栄養)」「どれだけ(量)」、「いつ(タイミング)」、「どのように(食事、補食)」摂るか、という4つの柱でプランを立てるのが基本で、トレーニングのピリオダイゼーションに紐づいています。トレーニングのピリオダイゼーションに則ることで、練習やトレーニングによって得られる成果を最大化し、よいコンディションを維持することにも繋がります。

準備期(プレシーズン)とは

準備期の前半にあたる一般準備期は、1年間戦い抜くための基礎体力を高める土台づくりの時期になります。一般的に土台となる筋力や持久力の強化のため、ウエイトトレーニングや走り込みが多く、トレーニング強度はそれほど高くありませんが、量(距離、時間)が多くなる時期です。また、カラダづくりの目標に応じて、筋肉量を増やしたり、適正な体脂肪量になるよう、体組成をコントロールするのもこの時期に行います。

準備期の後半にあたる専門準備期は、試合期に向けて、競技種目の専門性に寄った、実践的な練習やトレーニングに移行します。一般的に、一般準備期よりもトレーニング強度が高くなり、量も多い時期です。トレーニングがしっかりできるよう、疲労回復やケガ予防に努めましょう。

準備期の食事と栄養

1.「バランスのよい食事」を意識する

基礎体力を高め、適正な体組成を目指すためには、食事の基本である「主食・主菜・副菜・汁物・果物・乳製品」が揃った食事を意識することが重要です。カラダづくり=たんぱく質、と考えがちですが、たんぱく質を筋肉にするためには、ビタミンやミネラルなど多くの栄養素が必要です。体内で栄養素はチームとなって働くため、これさえ摂っていればよいというわけではありません。試合期になる前にバランスのよい食事を習慣化しましょう。

2.練習量に合わせたエネルギーをとる

練習量が多く、エネルギー消費量も多くなるため、3食+補食を摂ることで1日のエネルギー摂取量が不足しないようにしましょう。特にエネルギー源となる主食はしっかり摂ることが必要です。体脂肪を落としたい場合でも「主食抜き」はNGです。炭水化物が不足した状態でのトレーニングは、エネルギー源の不足により疲労の原因になったり、筋肉の材料となるたんぱく質(アミノ酸)がエネルギーとして使われてしまうため、筋肉が増えにくくなったりします。

体脂肪減少には、主食を減らすのではなく、お菓子やジュース、菓子パンなど甘いものから減らしましょう。また、白米に玄米やもち麦を混ぜる、食パンをライ麦パンにするなど、食物繊維が多く含まれる主食の割合を増やして摂るのもおすすめです。揚げ物、ファストフード、ベーコン、ウインナー、スナック菓子など脂質の多い食品も体脂肪増加の原因になるため、頻度と量を見直しましょう。一方、体重が減りやすい選手は、献立に揚げ物や炒め物を取り入れたり、スープやサラダにオイルをプラスする、豆腐を厚揚げにするなど、上手に油を利用してエネルギー摂取量を増やしましょう。

3.貧血を予防する

トレーニングで筋肉を動かすにも、持久力を維持するにも酸素が必要です。体内で酸素を運搬するのは血液を構成する「赤血球」という成分で、主に鉄とたんぱく質から作られています。鉄は、レバー、牛肉、まぐろ、かつお、納豆、小松菜、ほうれん草などの食品に含まれています。貝、卵、大豆製品、野菜に含まれる鉄は吸収率が低いため、吸収率を高めるために、ビタミンC(果物や野菜)やたんぱく質(肉や魚など)と一緒に摂ることがおすすめです。注意しなければいけないのは、高強度トレーニング時に鉄を摂取すると、体内の炎症によって吸収が阻害されたり、炎症を悪化させたりすることがあります。一般準備期の食事からしっかりと鉄を取り入れ、エネルギーを補給し、貧血予防をしておくことが大切です。

【鉄の多い食品】
レバー、かつお、まぐろ、いわし、あさり、牛赤身肉、豚ヒレ、ほうれんそう、小松菜、水菜、納豆、豆腐、切り干し大根、ごま、きくらげ、卵黄など

参考資料
日本スポーツ栄養学会監修,高田和子・海老久美子・木村典代編集.エッセンシャルスポーツ栄養学.市村出版.2020.
独立行政法人日本スポーツ振興センター,国立スポーツ科学センター. 体重階級制競技のウエイトコントロールガイドブック.2019.
https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/jiss/info/pdf/weight%20control_guide%20book.pdf(2022年5月8日アクセス)
Stellingwerff T, Maughan RJ, Burke LM. Nutrition for power sports: middle-distance running, track cycling, rowing, canoeing/kayaking, and swimming. J Sports Sci. 2011;29 Suppl 1:S79-S89. doi:10.1080/02640414.2011.589469
Damian MT, Vulturar R, Login CC, Damian L, Chis A, Bojan A. Anemia in Sports: A Narrative Review. Life (Basel). 2021;11(9):987. Published 2021 Sep 20. doi:10.3390/life11090987
Stellingwerff T, Boit MK, Res PT; International Association of Athletics Federations. Nutritional strategies to optimize training and racing in middle-distance athletes. J Sports Sci. 2007;25 Suppl 1:S17-28. doi: 10.1080/02640410701607213. Erratum in: J Sports Sci. 2009 Apr;27(6):667. PMID: 18049980.

〈監修者〉柴崎真木(しばさきまき)

柴崎真木(しばさきまき)
管理栄養士・健康運動指導士
健康科学修士・経営学修士(MBA)
岐阜県スポーツ科学トレーニングセンター、日本スポーツ振興センターマルチ・サポート事業、実業団陸上部を経て、フリーランスとして活動
月刊スイミングマガジン「食べて速くなる栄養学」連載

競泳、柔道、陸上長距離、スピードスケートを中心に、小学生から日本代表まで幅広い層の栄養サポートを実施。スポーツ現場以外の活動では、大学非常勤講師として「スポーツ栄養学」授業を担当。スポーツ栄養士を目指す学生に対して、理論と実践をわかりやすく伝えることを心掛けている。

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