ピリオダイゼーション(期分け)に合わせた食事と栄養(パートⅡ:試合期)

ピリオダイゼーションとは

試合に向けて、コンディションやパフォーマンスを最もよい状態に合わせるために、年間のトレーニングをいくつかの期間に分けて、それぞれのトレーニングの種類や量、強度を効率よく組み合わせ、実施することをいい、「期分け」ともいいます。

 

ピリオダイゼーションは、主に「準備期」、「試合期」、「移行期」の3つに区分され、準備期はさらに「一般準備期」と「専門準備期」に分けられます。高校野球の場合には春から夏と秋が、大学生の場合は夏のインカレが「試合期」となり、その前が準備期、後が移行期となるイメージです。

 

スポーツ栄養は、「何を(栄養)」「どれだけ(量)」、「いつ(タイミング)」、「どのように(食事、補食)」摂るか、という4つの柱でプランを立てるのが基本で、トレーニングのピリオダイゼーションに紐づいています。トレーニングのピリオダイゼーションに則ることで、練習やトレーニングによって得られる成果を最大化し、よいコンディションを維持することにも繋がります。

試合期(インシーズン)

試合に向けてカラダを研ぎ澄ませ、よいコンディションを維持することが重要です。毎週のように試合が続いたり、トレーニング量は多くなくても強度が高い日が続いたりするため、疲労が蓄積しやすい時期です。疲労の蓄積はケガや体調不良の要因になるため、日々のリカバリーが重要になります。

試合期の食事と栄養

1.基本的にはバランスのよい食事が大切

試合期の食事も基本的にはバランスよく食べることが大切です。専門準備期に比べるとエネルギー消費量はやや少なくなりますが、運動強度は高いこと、試合が続くことで疲労がたまりやすいことから、エネルギー源となる炭水化物はしっかり摂ることが大切です。特に試合前日は「主菜(肉魚などのおかず)はやや少なめ」、「主食は多め」を心がけるとよいでしょう。

2.疲労時には消化のよいものを

試合期は、疲労感に比例して食欲や消化する力が落ち、体重が落ちてしまう選手も少なくありません。疲れている時には、白身魚や鶏肉、豆腐、温野菜など脂肪の少ない消化のよい食材を使ったおかずを選び、よく噛んで食べるようにしましょう。噛むことによって唾液が分泌し消化を促すだけでなく、免疫機能の維持にも役立ちます。

3.補食を活用しよう

体重が減りやすい選手は、3食でしっかり摂るのではなく、補食でエネルギーや栄養素を分けて摂るとよいでしょう。内臓に負担をかけないためにも小分けして摂ることがおすすめです。トレーニング前のおにぎりやゼリーなどの糖質を中心とした補食は練習中の疲労軽減や筋肉の損傷を抑えます。トレーニング後すぐに食事が摂れない場合には、おにぎり、サンドイッチ、乳製品などから糖質やたんぱく質を摂ると疲労回復を助けます。

4.水分補給を心がける

体内の水分が不足すると疲労感も抜けません。4月以降の試合期では、運動強度が上がるだけでなく、気温も上がり脱水を起こしやすくなります。脱水症状を確認するには、尿と便の状態をチェックするとよいでしょう。尿の色が濃い、便が硬い、排便がスムーズでない場合には脱水を起こしている可能性があります。運動中の水分補給はもちろん、ごはんや汁物、野菜など食事から摂れる水分も意識しましょう。

5.腸内環境を整える

腸内環境を整え、栄養素をきちんと消化・吸収し、食事から得られる効果を最大化することがコンディションの維持につながります。腸内環境を整えるには、野菜やきのこ、海藻に含まれる食物繊維や、野菜や乳製品、発酵食品などに含まれるオリゴ糖、乳酸菌などを摂るようにしましょう。補食で果物や乳製品を摂るようにしたり、食事で納豆やキムチ、具沢山の味噌汁、根菜の煮物、酢の物などを摂るとよいでしょう。但し、試合の前日の夕食や当日の朝食では、試合中にお腹の調子が悪くならないように、あまり多くの食物繊維を摂らないようにしましょう。腸内環境の維持には、食事だけでなく、睡眠をしっかりとることやストレスをできるだけためないようにすることも大切です。ゆっくり入浴する、早めに就寝するなど取り入れてみましょう。

参考資料
日本スポーツ栄養学会監修,高田和子・海老久美子・木村典代編集.エッセンシャルスポーツ栄養学.市村出版.2020.
独立行政法人日本スポーツ振興センター,国立スポーツ科学センター. 体重階級制競技のウエイトコントロールガイドブック.2019.
https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/jiss/info/pdf/weight%20control_guide%20book.pdf(2022年5月8日アクセス)
Stellingwerff T, Maughan RJ, Burke LM. Nutrition for power sports: middle-distance running, track cycling, rowing, canoeing/kayaking, and swimming. J Sports Sci. 2011;29 Suppl 1:S79-S89. doi:10.1080/02640414.2011.589469
Damian MT, Vulturar R, Login CC, Damian L, Chis A, Bojan A. Anemia in Sports: A Narrative Review. Life (Basel). 2021;11(9):987. Published 2021 Sep 20. doi:10.3390/life11090987
Stellingwerff T, Boit MK, Res PT; International Association of Athletics Federations. Nutritional strategies to optimize training and racing in middle-distance athletes. J Sports Sci. 2007;25 Suppl 1:S17-28. doi: 10.1080/02640410701607213. Erratum in: J Sports Sci. 2009 Apr;27(6):667. PMID: 18049980.

〈監修者〉柴崎真木(しばさきまき)

柴崎真木(しばさきまき)
管理栄養士・健康運動指導士
健康科学修士・経営学修士(MBA)
岐阜県スポーツ科学トレーニングセンター、日本スポーツ振興センターマルチ・サポート事業、実業団陸上部を経て、フリーランスとして活動
月刊スイミングマガジン「食べて速くなる栄養学」連載

競泳、柔道、陸上長距離、スピードスケートを中心に、小学生から日本代表まで幅広い層の栄養サポートを実施。スポーツ現場以外の活動では、大学非常勤講師として「スポーツ栄養学」授業を担当。スポーツ栄養士を目指す学生に対して、理論と実践をわかりやすく伝えることを心掛けている。

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