[アミノ酸スポーツ栄養科学ラボ 特別対談]大学生水泳【前編】大一番で力を出し切るピーキングの重要性

[アミノ酸スポーツ栄養科学ラボ 特別対談]大学生水泳【前編】大一番で力を出し切るピーキングの重要性

コンマ何秒の差が勝負を左右する水泳。狙ったタイミングで結果を出すには、ピーキング(狙った試合にベストのコンディションで臨めるように、コンディションを上げていき、そのピークを合わせる)やテーパリング(練習やトレーニングの量・頻度を徐々に減らしてコントロールすること)も重要です。毎日の栄養補給や最適なトレーニングなど、パフォーマンスを発揮するためのカラダ作りは、そのベースになります。

 

そこで今回は競泳日本代表を指導する東洋大学水泳部トレーニングコーチでもあり、現在は独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センターハイパフォーマンスサポート事業トレーニングコーチを務める沼田幹雄さんと、味の素(株)のトップアスリートの栄養サポート活動「ビクトリープロジェクト®」に関わる管理栄養士の鈴木晴香さんにインタビュー。水泳競技者に必要なトレーニングと栄養、コンディショニングについて伺います。

[インタビュー]
ストレングス&コンディショニングコーチ 沼田幹雄さん
味の素(株) 管理栄養士 鈴木晴香さん

大学水泳に適したピーキング

大一番で万全の体調に。段階を追ったピーキング

――水泳は数あるスポーツの中でも運動量が多く、長時間プールの中で過ごすには体温や体調管理も意識しなければなりません。仮に「男子大学生(1年生)」がいたとして、日々練習をする上で、重要なことを教えてください。

沼田:水泳は、水の中で運動するところが他のスポーツと大きく違う点です。水中ではエネルギー消費量も大きいですし、練習時間も長い印象があります。練習の過程も、最初は水に入る前のウォーミングアップ。水中に入ってから徐々に強度を上げて長い距離を泳ぐ、パワーを出して泳ぐなど、様々な形の練習法があるので、カラダのエネルギーも相当使う印象です。他競技に比べてもコンディショニングの重要性は高いと思います。

――大学水泳部の選手において、よく抱えるコンディショニングの課題はどういったものでしょう。

沼田:水泳では、一番重要なレース時に筋力やパワー、心肺持久力などの体力要素を一番良い状態に持っていく、いわゆる「ピーキング」がより重要になります。大事な試合だけに絞ってコンディションを整えるのは難しいので、前哨戦に参加したり、練習のタイムトライアルで個人目標タイムを設定したりして、トレーニングを重ねながら重要な大会に標準を合わせていきます。

チームとして動きながらも、泳ぎや肉体のトレーニング課題は個人差があるので、ピーキングが難しい競技の1つだとは感じますね。

鈴木:「個人差」というと、「この選手は何日前までにこの練習強度を上げる」などのイメージでしょうか?

沼田:それも個人で“まちまち”です。ある程度、量や強度を確保しなければならない選手もいれば、外的な負荷をかけすぎないようにして、早めに疲労を抜きながら調整する選手もいます。個人の状態を見定めながら、その選手に合った細やかなピーキングが重要ですね。

鈴木:同感です。多くの選手を見てきましたが、調子の合わせ方は様々ですよね。個々の調整方法は、やはりやってみないと分からないものですか?

沼田:そうですね。色々なチャレンジをしてみて、善し悪しを検証しながら、改善を重ねて大会に合わせていきます。泳ぎに関しては、コーチの目線と選手の感覚が大切なので、できるだけコミュニケーションを取りながら、彼らの声をトレーニングに反映するようにしています。

「ちょこちょこ食べ」で1日の練習に耐えられる栄養を補う

――トップアスリートを見てきた経験から、大学生年代の毎日のカラダ作りと食事について、気を付けたいことを教えてください。

鈴木:水泳選手はエネルギー消費量がすごく多いので、カラダ作りにおいても、1日に必要なエネルギーをしっかりと摂取することが重要です。

大学生は朝練をして、授業後には夕方練習と、1日2回練習します。朝練は朝が早いので、どうしても朝食をしっかり食べるのは難しい。だから、練習の合間にもしっかりエネルギー補給できるように、エネルギーゼリーをこまめに飲んでもらいたいです。朝練後にも、朝食で摂れなかった分の栄養補給のため、補食を摂ります。

昼食では、朝食に不足しがちな野菜を意識して摂っていただきたいですね。また夕方の練習前後にも、しっかりと補食を挟んでいるかが重要になってきます。補食がないと、ついつい夕食を食べ過ぎて、睡眠の質が低下したり、翌朝ご飯が食べられなくなったりします。

「ビクトリープロジェクト®」でサポートしている競泳のトップ選手も、時間を見つけては何かを食べる『ちょこちょこ食べ』を実践しています。大学生選手にも是非、『ちょこちょこ食べ』を意識していただきたいです。

――エネルギー消費量の高い水泳にはより補食活用が大事ということですね。

鈴木:はい。エネルギー消費量の多い水泳では、エネルギー切れを起こさないために補食を活用すべきです。エネルギーが切れると、筋肉を壊してエネルギーを生み出してしまうので、カラダ作りがうまくいかず、練習の質も下がってしまいます。1日を通してエネルギー切れを起こさないことが重要です。

[⇒このテーマに対する具体的な回答は後編で!]

水泳にも必要なカラダ作りのためのトレーニングと栄養

――水泳選手だからこそ筋肉を強化したい部位、おすすめの鍛え方などありますか?またジムトレーニングでは、どんなものが効果的でしょうか?

沼田:下半身と上半身、ベーシックな種目を全身満遍なく行って欲しいですね。水泳に限りませんが、競技に関わるとパワーアップが必要なので、パワー系トレーニングを導入して、段階的に進めていかなければなりません。

水泳というと、陸上で行うカラダをぶつけあうスポーツに比べると、「そこまで筋肉は必要ないのでは?」と思われる向きもある。しかし、水泳に限らず競技レベルが高くなればなるほど、筋力やパワーは必要です。泳ぎの技術において、水中でいかに水を掴みながら推進力を得るかが課題になるので、陸上での筋力トレーニングは欠かせません。特に部位で言えば、泳ぐための動きを司る背中の筋肉を鍛えていただきたいです。

――高校から大学に進んだばかりだと、筋力トレーニングが不十分な選手もいます。筋肉量が足りない選手に対してはどのようにアプローチしていますか?

沼田:トレーニング経験がある人とない人では、どうしても差が出てきます。筋肉量が不十分な選手に関してはトレーニングの意味を理解してもらい、どんな種目を導入していくか、考えながら進めています。高校生から大学生に上がる時期は、カラダが作られていく年代。成長段階で適切なトレーニングを行い、効果的に筋肉量を増やすことは、結果的に泳ぎの質の向上にも繋がるはずです。

[⇒このテーマに対する具体的な回答は後編で!]

トレーニングしても材料のたんぱく質がなければ筋肉はつかない

――水泳選手の筋力トレーニングに必要な栄養素・食材があれば教えてください

鈴木:いくらトレーニングをしても、筋肉そのものを作る材料がなければ、残念ながら筋肉はつきません。材料となるたんぱく質を、しっかり摂る必要があります。

まずは、食事の中でたんぱく質を摂るのが大前提ですね。また、運動後すぐにたんぱく質を補給すると効率が良いです。ただ、運動後にたんぱく質を“ガッツリ”食べると、消化吸収するまで3~4時間かかるので、どうしても胃腸に負担がかかります。 そんなときは、上手にアミノ酸を摂取すれば、より効率的に筋肉を作ることができます。練習やトレーニング後にはアミノ酸、家に帰ってからは食事でしっかりたんぱく質を摂る、というサイクルがおすすめですね。

――「トレーニング後にはアミノ酸」ということですが、プロテインを摂取するのも効果的でしょうか?

鈴木:プロテインの摂取は大事ですが、プロテインを飲むことで胃腸に負担をかけて、食事が摂れなくなっては本末転倒です。胃腸に負担をかけず筋肉にしっかりアプローチできるアミノ酸を摂れば、その後の食事もしっかり摂れるので、効果的にたんぱく質を摂取できると思います。

沼田:栄養に関する知識が少ない選手は、最初に何から手をつけたらいいですか?

鈴木:基本的にエネルギー不足だと、いくらトレーニングしても筋肉はつきません。それを理解してもらったうえで、最初の一歩としてエネルギーを切らさないことを意識する。そのために練習前にエネルギーゼリーを飲むように促すと良いかもしれません。

特に大学生は授業後に練習があるので、昼食後から練習までの時間が長くなります。その間に栄養を補給せず練習に入ると、 エネルギー不足になった結果、練習時に筋肉の分解が起こります。エネルギー不足になっていないか、つまり、自分に必要なエネルギー量がとれているか、毎日体重計に乗ってチェックする。その上で、エネルギーゼリーやアミノ酸を上手く利用して、練習の合間にうまく栄養補給していただきたいと思います。

『前編』では、ピーキングの重要性、1日の練習をこなすための「ちょこちょこ食べ」の活用などについてお伝えしました。 『後編』では、試合前や当日の調整方法、具体的なトレーニングや食事・補食の内容を紹介します。

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ストレングス&コンディショニングコーチ 沼田幹雄さん

独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンス・サポート事業 トレーニングコーチ

1972年生まれ。セントラルスポーツ勤務を経て、主に大学・社会人のアメリカンフットボールチームやラグビーチーム等でトレーニング指導を行う。特定の競技に問わず、多数のチームでストレングス&コンディショニングコーチを務め、オリンピックレベルのトップアスリートの指導に従事。現在は、独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センターハイパフォーマンスサポート事業トレーニングコーチを務める。株式会社bigground代表取締役。

管理栄養士 鈴木晴香さん

味の素(株) 管理栄養士

管理栄養士。大学院でスポーツ栄養学を学び、2015年に味の素(株)に入社。2023年まで、トップアスリートの栄養サポート「ビクトリープロジェクト®」を担当し、ハンドボール、競泳、フィギュアスケートなどの選手をサポート。現在は、スポーツ栄養研究や、アミノ酸の普及活動に携わっている。

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