[特別対談]野球前編:トレーニング、食事、休息のバランスが大事。情報に流されず、自分で考える力を

[特別対談]野球前編:トレーニング、食事、休息のバランスが大事。情報に流されず、自分で考える力を

投げる、打つ、守る、走る。野球は、多様な技術が求められる競技です。運動量も多いため、しっかり考えなければコンディション維持が難しくなります。そのため、練習をこなすための基礎体力強化とエネルギー確保は必要不可欠。さらにパワー発揮を目的とした筋力・筋量アップなど、頑健な肉体作りも同時に行わなければいけません。

 

今回は、トップアスリートを中心に指導されていて、野球現場での経験も豊富な認定ストレングス&コンディショニングスペシャリストの三浦佳祐さんと、公認スポーツ栄養士の佐藤郁子さんにインタビュー。毎日のトレーニングや栄養摂取に関して気にかけたいことや一年を通したトレーニング・食事計画の立て方などを伺います。

[インタビュー]
ストレングス&コンディショニングコーチ 三浦佳祐さん
公認スポーツ栄養士 佐藤郁子さん

トレーニングも栄養補給も、毎日の心がけが大事

――野球は日中の練習量が多く、安定してパフォーマンスを発揮するには生活習慣が重要です。例として高校生野球部員(172cm 65kg、男性)の場合、高いパフォーマンスを維持するにはどうすれば良いでしょうか?

三浦:最も大切なのは、適切な栄養摂取と十分な睡眠によるリカバリー。これに勝るものはありません。年間を通してパフォーマンスを維持するには、栄養、睡眠、トレーニングをセットで考えることが重要。特に練習前や途中の補食、練習後のリカバリー……つまり、練習中のみならず、練習前後にどう過ごすのかも鍵になります。

――必要な栄養を摂取して、日々良いコンディションをキープすることが、パフォーマンス向上への近道ということでしょうか。

三浦:パフォーマンスを上げるには、やはり練習が一番です。打撃は打撃、投球は投球の練習をしなければ上手くなりません。ただ、その練習を高いレベルで行うためには、取り組む際のコンディションが良好である必要があります。そのためにも栄養、睡眠、トレーニングによる基礎体力作りは欠かせませんね。

――毎日のエネルギー補給についてはどうでしょう。運動量に見合ったエネルギーを獲得するには、普段の食事や補食も重要ですよね。

佐藤:私も三浦さんと同じく、栄養、睡眠、トレーニングは切り離せないものだと考えています。いくらトレーニングしても栄養を摂取しないかぎり筋肉は増えませんし、休養を取らないと体力は向上しません。栄養面を考えると、朝・昼・晩と三食しっかり食べるのが理想です。

しかし、日本の食習慣だと朝が軽くて昼・夜と順番にボリュームアップしがち。夕食にドカンと量を食べるケースも多いですが、夕食後はあまり動かないですよね。私としては、朝も夜と同じ量を食べてもらいたいのが本音です。

そもそも、栄養補給のタイムスケジュールを選手自身が確立しないと、食習慣を改善するのは難しいです。何を食べるかより、三食+補食を、どのタイミングでどのくらいの量食べるかを重視してほしいですね。

――高校生の場合、朝練から始まり夜まで、一日の練習時間が長いことが多いです。エネルギー不足にならないために栄養面で気をつける点はありますか?

佐藤:高校生の一番の仕事(本分)は学業です。朝からしっかり食べないと、エネルギー不足が起きてしまい、なるべくエネルギーを消費しないように寝ようとします。寝るのが一番エネルギーを消費しないからです。授業中に寝てしまって、学業をおろそかにし、野球だけ頑張るのは学生の本分を忘れています。授業中に寝てしまわないためにも、特に朝の栄養補給は不可欠です。

朝練の時間や通学時間など、条件によって変わりますが、たとえば朝早い場合は家で少し食べて、朝練が終わった後にも栄養補給をする。または、2~3時限目の間にも補食をとるなど、生活スタイルに合った食べ方を見つけてほしいです。ちゃんと授業を受けて、午後から良い練習ができるように、エネルギー量を確保してもらいたいですね。

――肉体作りの上では、たんぱく質も必要ですよね。

佐藤:実はたんぱく質ばかり摂っていても、あまり意味がありません。相対的にエネルギー量が足りなければ、エネルギーを使う方に持っていかれてしまいます。ですから、バランスよく炭水化物、脂質も摂りましょう。

三浦:基本的なことですが、三大栄養素のバランスが重要ですよね。これは「高校野球あるある」かもしれませんが、どれか一つの栄養に偏り、バランスが崩れてしまっている人やチームをよく見かけます。

たとえば、昔ながらの「白飯さえ食べていれば強くなる」という“白飯信仰”が根付いているタイプ。他にも、プロ野球選手が使用するサプリメントやプロテインを摂取してたんぱく質量だけが多くなっている人もいます。極端な情報に走るのではなく、バランスとタイミングを考えるのが大事ですね。

佐藤:歴史が長い、野球というスポーツだからこその特徴かもしれませんね。

白飯だけでお腹がいっぱいになってしまうと他の栄養素が摂れなくなってしまうので、おすすめできません。いまだに「練習中に水を飲むな」というチームもあるようで、情報がアップデートされていない印象です。

選手自らトレーニングと食事の計画を立てる

――特に野球だとパワー発揮が重要です。筋量・筋力アップを目的としたトレーニングや、野球において鍛えておきたい筋肉を教えてください。

三浦:重要なのは、大きな力を素早く発揮する(立ち上げる)能力と、その土台にもなる最大筋力です。もちろん基礎的な持久力や柔軟性なども大事ですが、どのポジションにおいても力を素早く発揮する能力は、パフォーマンスに大きく影響します。そして、これらの要素を向上させることは、高いパワー発揮をする上でも重要だと考えられています。

「野球の筋力は野球でつけろ」という風潮はいまだに残っています。もちろん、野球の動きや技術そのものを向上させるには野球を行うのが一番ですが、筋力を含めた基礎体力を効果的・効率的に向上させようと思うと、野球の技術練習以外の補強が必要になります。強い力を発揮するために、下半身の筋力は必要不可欠です。適切なフォームを習得した上で、スクワット、デッドリフト、ランジといったベーシックなトレーニングを導入することで、筋力と同時に可動域の向上も見込め、怪我の予防にも繋がります。

――筋トレをする時期やタイミングについてはどうでしょうか?

三浦:基礎筋力をつけて最大筋力を向上させる上でも、野球の練習とは別に筋トレの時間を1日40~60分、週2~3回は設けてほしいです。これは食事と同じですが、筋トレをしてもすぐに効果が出るわけではありません。年間を通して計画を立て、実行することが大切です。

野球では、試合のない11月中旬から2月末までのシーズンオフが、筋トレに時間を割ける時期。基礎筋力、最大筋力の向上にフォーカスしやすい期間です。だいたい2月くらいから技術練習の量が上がるので、筋トレは強度を維持・微増させながら、量や頻度を減らしていきます。夏の試合の多い時期に、ピークを迎えるよう仕上げていくイメージです。

先ほどの“白飯信仰”と同様「筋トレは冬場だけでいい」とシーズン中に全く筋トレをしないチームもありますが、これは大変もったいない話。せっかく冬場の3ヶ月で作った体力が、一番ピークの時期に下がってしまいます。筋トレする時間や頻度を減らすのは問題ありませんが、シーズン中でも定期的に筋肉にトレーニング刺激を与えることは必要です。

――肉体作りのための食事計画については、どう考えればよいでしょうか。

佐藤:シーズンオフには、指導者も選手も体重を増やすことに熱心です。でも「何のために増量するのか」が定まっていなければ意味がありません。やみくもに体重を増やして、脂肪だけが増えてしまうケースもあります。

私が野球部員に関わる際は、個別に面談して、「目標体重は何㎏」「そのために何を食べるか」など自分で計画を立ててもらいます。栄養摂取に関しても、自分で考えないと身につきません。

本人が何を意識しているか、どういう計画を立てているか確認した上で、間違っていたら修正していきます。たとえば、プロテインばかりを摂りすぎている場合は、炭水化物を増やすよう助言する、といった感じですね。

――生徒自身の栄養に関する意識を高めるということですか?

佐藤:はい。また、生徒だけでなく保護者の意識も大切です。大半は保護者が選手の食事を用意するので、セミナーなどを通して栄養補給の知識を共有して理解を促すのは有意義だと感じています。

三浦:指導者も選手も、自分の状況や計画を把握するアセスメントが大事ですよね。どの野球部でもありがちなのが、みんなで同じ目標を掲げてしまうこと。たとえば、「体重を一律何㎏増やそう」「スクワットの負荷を一律何㎏上げる」というような状況です。

人は百人百様なので、適切な体重も運動量も違います。目標が一律だと、一部では物足りなくて成長に繋がらず、また一部では負担が多すぎて怪我をしやすくなります。一人ひとり個別に目標を立てさせるのが難しい場合は、グループ分けしてタイプ別に目標設定すると良いでしょう。

――最近では高校生でもサプリメントを活用していますよね。サプリメントについてはどのように指導されていますか。

三浦:サプリメントの大前提は、頼りすぎないことです。あくまでも補食であり、主食にはなりえません。朝食の代わりにサプリメントとか、夜は疲れているので食事を抜いてプロテイン、などは意味がありません。トレーニング量が多くて負荷が高い場合に、普段の食事+αとして摂取する方法はアリかと思います。

サプリメントの成分や分量を知らずに使うのは良くないです。プロテイン=たんぱく質だと知らないで摂っている人も多い印象があります。製品選びに関しても、盲目的な「プロテイン信仰」は大変危険。どの栄養素を摂取すべきか、意識を改善するところから始めて欲しいですね。

『前編』ではトレーニングや食生活など、年間を通して選手自身が計画を立て実行する大切さを解説しました。

『後編』では実際の試合に向けたトレーニングの調整や栄養補給、練習中にエネルギー切れを起こさないための模範的な食事メニューを提案します。

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三浦佳祐 みうらけいすけ

三浦佳祐 みうらけいすけ

CSCS JSPO-AT

順天堂大学を卒業後、(株)KTAJにて10年間トレーニング指導者として活動。運営するコンディショニング施設(TACHIRYU CONDITIONING GYM)の統括を行い、一般層から野球・ラグビーを中心としたアスリートの指導に従事。その後、国立スポーツ科学センターにて、日本代表アスリートを対象としたトレーニング指導に当たる。国際競技力強化に向けて各競技団体が抱える課題に対し、スポーツ医・科学、情報の各側面と連携しながら支援を行っている。

佐藤郁子 さとういくこ

佐藤郁子 さとういくこ

順天堂大学医学部附属順天堂医院・浦安病院
公認スポーツ栄養士

1987年、文教大学女子短期大学部栄養科卒業。委託給食勤務を得て2006年よりフリーランスとなり、2010年に公認スポーツ栄養士を取得。2014年より順天堂大学医学部附属順天堂医院・浦安病院の女性アスリート外来専任栄養士として勤務。アスリート外来業務の他にフリーランスとしてセミナー、チームサポート、コラム執筆など幅広く活動中。
著書:『女子アスリートの「食事と栄養」』メイツ出版

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