[特別対談]自転車前編:タフでなければ務まらない自転車選手。「練習を完結させるのが栄養」

[特別対談]自転車前編:タフでなければ務まらない自転車選手。「練習を完結させるのが栄養」

どんなスポーツにおいても重要な持久力。特に自転車競技は、大学生でもレースで数百kmを走り、数日にわたる大会も行われるため、パフォーマンスを発揮するためのコンディショニングが不可欠。毎日の食事と補食による栄養補給、疲労のリカバリーなど、日々の過ごし方が結果に直結する競技です。

 

今回は、自転車競技選手指導30年以上のキャリアを持つストレングス&コンディショニングコーチの北見裕史さんと、強豪自転車チーム「スキルシマノ」の栄養士としてのサポート経験を持つ斉藤裕子さんにインタビュー。日々のトレーニングで気を付けたいこと、食事・補食などの栄養摂取のうえで意識したいことをお聞きしました。

[インタビュー]
ストレングス&コンディショニングコーチ 北見裕史さん
公認スポーツ栄養士・管理栄養士 斉藤裕子さん

持久力をあげるには心肺機能を強くする

――自転車レースでは、プロだと1日のレースで数百km走り、約6,000~7,000Kcal消費するとも言われています。例えば、大学生自転車部員(175cm 65kg、男性)の場合、どのくらいの練習量が必要なのでしょうか?

北見:私が指導している大学生の例で言うと、朝練は4時半に起きて70km程走ります。そのあと、朝食を食べて学校に向かう。休日の練習では、300kmくらい走ったりします。指導においては、できれば月2,000~3,000km自転車に乗る時間を作りましょうと言っていますね。

国内では、大阪から東京まで7日間かけて走る「ツアー・オブ・ジャパン」(2022年は新型コロナウイルスの影響で4日間の開催)や、全日本選手権、インカレで200km規模のレースがあります。いずれにしても、タフでないと務まらない競技ですね。

――それだけ練習がハードだと、日々良いコンディションを維持するために、食事・補食も重要です。具体的に朝・昼・晩で摂ると良い食品や栄養素はありますか?

斉藤:まず3食きちんと食べるのが大前提ですね。あとは補食をこまめに摂る。自転車競技は大量にエネルギーを消費するので、3食で摂り切るのは無理があります。一度ではたくさん食べられないですし、その後の動きに支障が出てはいけないので、補食を活用してエネルギー摂取量を増やすのが重要です。

また、トレーニングの時間帯も考慮したいですね。例えば、午前中にトレーニングがあるなら朝ごはんで十分な糖質を摂る必要がありますし、午後に行うなら、朝からたんぱく質や脂質も摂っておきたい。いつトレーニングするのか、トレーニングのタイミングに合わせて食事の内容を調整するのも大事です。

――自転車の場合、持久力が重要なテーマです。強化はどのようにして行うのでしょうか?

北見:基本的に持久力を向上させるには、心拍出量をあげることが大切です。心臓が1回ドキンとすることを、我々は「ドキン量」って呼んでいて(笑)、この「ドキン量(1回拍出量)×心拍数」で、心拍出量が決まります。

まず、有酸素運動でドキン量を増やしたいですね。これは90分以上は定常状態を続けないと効果が出ないです。日常生活では心臓は60~70拍程度で動いていますが、例えば1日の中で3~5時間くらい120拍になるような有酸素運動を取り入れたとします。そうすると普段より心拍数が多いから、心臓がなんとか適応しようと“ドキン”の量を大きくします。つまり、心肺機能を強くするんですね。
これにHIIT(高強度インターバルトレーニング)を組みあわせることで、持久力を高めていきます。

――大学生であれば、体格の違い・男女の違いなどでも食事量を調整しなければいけませんよね。

斉藤:基本的なエネルギー量としては、糖質で調節するのが効率的だと思います。女性だったら男性の7~8割にボリュームを落とせば良いですね。

他には、脂質も重要。特に青魚に含まれるEPAという成分が、持久系の心肺能力をあげるというデータも最近出てきています。特に朝に摂取すると良いと言われているので、午後に練習する日は、朝ご飯で魚を食べられるとより良いですね。良質な脂質を摂って、糖質とたんぱく質を総合的に増やすやり方がオススメです。

良い練習をしても、リカバリーできなかったら無駄になる

――自転車選手にとっては、体重も重要な要素の一つです。必要のない筋肉はつけない方がいいといった見解もありますが、どうお考えですか?

北見:自転車競技は、地面を蹴って進むのではなくて、“転がって進む”。だから、体重がダイレクトに脚にかかることはありません。ただ、風の影響が大きく、集団の中にいるときは3割引きくらいの力で進むことができるので、平坦な道においては体重の影響は少ないと言えるでしょう。

ただ、上り坂になると転がっていても体重が大きく関わってきます。傾斜がある道では自分の体重を持ち上げなければいけないので、上り坂が強い選手には体重が軽く細い人が多いですね。そういう選手は、栄養を摂りすぎて太ることを嫌います。自分がどんなタイプの選手かを考えて、体重をコントロールする必要がありますね。

――日常的な生活習慣において、パフォーマンスを向上させるためのアドバイスはありますか。

斉藤:トレーニング後いかに栄養が摂れているかを、重要視しています。良い練習をしても、リカバリーできていなかったら無駄になってしまう。「練習を完結させるのが栄養」ということです。練習やトレーニングが終わった後、いかに素早く栄養補給できるかがポイントだと伝えています。

北見:運動後の栄養補給って、何分以上過ぎたら効果がなくなるとかあるんですか?

斉藤:形状にもよりますね。例えば、アミノ酸なのかプロテインなのか……。それによって、消化吸収時間が変わってきます。ただ、基本的に、筋肉への栄養素の取り込みは運動後30分がピークで、45分ぐらいからだんだん下がり、75分ぐらいだとほぼゼロに近くなる。なので、30分以内の栄養補給を目指したいところです。

自転車を味方にした選手は、パフォーマンスがあがる

――筋トレなどのトレーニング時に特に意識したいことはどういった点ですか?自転車選手として鍛えておいた方が良い筋肉などあれば、教えてください。

北見:足で踏むペダルの力は、体重の重さが限界なんです。でも、ハンドルを引っ張ってベダルを踏めれば、背筋力が加わる。今回の例の65㎏の学生でも、上半身を使えば200㎏ぐらいの力が出せる計算になります。つまり、足の力を出すためにも腕や背中側の筋肉が必要になるということです。

加えて言うと、上半身をブラさずに止められることが重要です。上半身が安定する分、足に力をしっかり伝達できますから。そうした自転車競技ならではのカラダの使い方を身につけた選手、つまり自転車を味方にした選手が、パフォーマンスも高くなると考えています。

――トレーニング期に筋力・筋量を増やすため、適切な栄養はありますか?

斉藤:栄養の摂り方も、例えば筋持久系を強化するのか、筋肥大させるのかで変わりますね。たんぱく質を増やしたり、量を調整したりするのもひとつの方法。ただ大前提として、エネルギーの基本となる糖質は必要なので、糖質を主体としながらたんぱく質や脂質をうまく入れて調整していく形です。

トレーニング中はとにかくエネルギーが必要になるため、練習前に糖質がどれぐらい摂れているかが重要。それも、練習の何時間前に食べるのかによって内容を変える必要があります。栄養成分にもよりますが個人的には、“消化吸収に時間がかかるものの方がエネルギー切れは遅い”と考えています。おにぎりなどは手軽なゼリー飲料よりもエネルギーが持続しやすいので、可能なら授業の合間に食べておく。そして授業後にはフルーツ、運動中は消化吸収能力も劣るのでスポーツドリンクやサプリメント……など、形状を変えて糖質の補給を積み重ねていくことをオススメします。エネルギー系ゼリーなど、摂取タイミングに合わせてうまく活用できるといいですね。

『前編』では、自転車の競技特性にあわせた日常生活のポイントや食事、トレーニング時に注意したい点などをご紹介しました。
『後編』では、コンディショニングの方法やレース前後の過ごし方、必要なエネルギー・栄養素をカバーする模範的な食事メニューを提案します。

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トレーニングによる筋肉量アップの効率を上げる『必須アミノ酸高配合ホエイプロテイン』

北見裕史 きたみひろし

北見裕史 きたみひろし

スーパーKアスリートラボ代表
NSCA認定CSCS、健康運動指導士

筑波大学大学院修士課程コーチ学専攻修了。現在、プロアスリート、学生選手にS&C指導及び指導者の育成を行っている。2019年茨城国体では、茨城県自転車競技連盟、強化委員長として総合優勝、天皇杯、皇后杯獲得に貢献。また、自転車競技の普及では、大会運営、競技役員、企画にも携わる。さらに心臓リハビリテーション実践の場でも自転車を用いて運動指導をしている。自転車競技歴35年、国体14回出場、全国大会20回入賞の経験を持つ。

斉藤裕子 さいとうひろこ

斉藤裕子 さいとうひろこ

公認スポーツ栄養士、管理栄養士、NSCA認定CPT

実践女子大学卒業、東京学芸大学大学院修了。卒業後は食品メーカーやスポーツアパレルメーカー所属の管理栄養士としてトップからジュニアアスリートに対する試合帯同やアーティストのライブに向けたアドバイスを実施。2009年~2010年にはスキルシマノチーム栄養士としてサポートを担当。2018年からプロ野球チームに常駐した後、現在は、個人アスリートサポートや健康増進に従事、食事面から対象者を支える。

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