なにより毎日の自分のコンディションを自覚することが大切/陸上 中長距離前編[アミノ酸スポーツ栄養科学ラボ 特別対談]

年々ジョギング・ランニング人口は増加して、陸上の中長距離もより身近な競技になりました。だからこそ、知っておきたいのが正しい基礎知識。長距離では長時間の運動に耐えられる高い心肺持久力と、エネルギー消費を抑えるために効率的な走りが求められます。アスリートとしては、試合で結果を残しながら長く競技を続けるためにも、怪我を予防するコンディション作りと栄養補給が不可欠です。

 

今回は、高校駅伝の名門広島県立世羅高校の女子陸上競技部とダイソー女子駅伝部の指導を行うトレーナーの相川貴裕さんと、立命館大学大学院にて女子アスリートに関する研究を行い、現在、創価大学駅伝部の栄養サポートを担当しているスポーツ栄養士の仲山七虹さんにインタビュー。中長距離競技の陸上選手が日常生活で意識したいことや、ハードなトレーニング時のアドバイスを伺います。

[インタビュー]
ストレングス&コンディショニングコーチ 相川貴裕さん
公認スポーツ栄養士 仲山七虹さん

体重や体脂肪率など、毎日測定する数値の変化に目を配る

――陸上の中長距離走では、怪我なく毎日練習を積み重ねることが大事になります。例として女子高校生で、身長158cm、体重45kgの選手の場合、毎日良いコンディションで練習・トレーニングに臨むため、日常生活で意識したいことを教えてください。

相川:なにより、毎日の自分のコンディションを自覚することが大切です。中長距離選手だと練習日誌をつけている選手も多いですよね。練習の記録だけでなく、体重、体脂肪率、安静時心拍数など毎日測定する数値の変化に目を配り、疲労度を把握して、コンディションを確認することが重要です。数値に異変があり疲労が溜まっていても、監督やコーチにうまく伝えられず、調整に失敗するケースもあります。正確に自分の状態を伝える力も、大切な要素だと思います。

――練習による負荷が高い中長距離走では、怪我の予防も重要です。正しいフォームを身に着けるなど意識したいポイントはありますか?

相川:やみくもにフォームを意識するのは逆効果で、意識しすぎると怪我しやすくなるケースもあります。「ここがおかしい」と思ったら、走る練習の中で改善することに過剰に意識をせず、走る以外のトレーニングで結果的にフォームが改善する方法を考えてほしいです。

今は厚底シューズがブームですが、そればかりで走っていると筋力が低下するという研究結果も出ています。男子選手は筋力があり運動能力が高いので、厚底でも薄底でも同じ動きができる。一方、筋力が弱い傾向のある女子選手の場合、薄底では厚底と同じ動きができないこともあります。その際はフォームの矯正より、筋力を維持するトレーニングが必要です。

――学生や若い選手にとって栄養補給は特に重要です。長距離選手はより多くのエネルギーを摂取する必要がありますが、毎日の食事で欠かせない栄養素など教えてください。

仲山:一言でいえば「バランスの良い食事」に尽きますね。5つの栄養が揃っているか、毎食確認してほしいです。1つ目は主食の炭水化物があるか? 2つ目にタンパク質が摂れる魚や肉が揃っているか? 3つ目に野菜や海藻、キノコが摂れる小鉢があるか? あとは果物と乳製品です。3食で足りない場合は、補食を入れます。毎日の食事の中で必要な栄養素が欠けないように意識しながら生活すると、かなり違ってきますね。

――練習前と練習中、終了後にはどんなタイミングで栄養補給をしたらいいでしょうか?

仲山:練習前であれば、3食から時間が空く場合は補食を摂るよう選手に伝えています。摂取する時間は、練習前ギリギリだと消化が間に合わずお腹が痛くなって練習に支障をきたす場合があるので、個人のスケジュールや消化のスピードに合わせてカスタマイズします。練習中は水だけしか飲まない選手もいますが、汗でミネラルが排出されるので、水分と共にミネラルも補給してほしいですね。練習後は、できるだけ早いタイミングでのエネルギー補給が理想です。特に高強度の練習後は筋肉が壊れてしまっています。そのため、練習終了後はドリンクやアミノ酸入りのゼリーをすぐに飲んで、糖質やたんぱく質を補給してほしいですね。

食事の内容は選手ひとり一人が「競技生活を続けたい期間」で変わる

――持久力強化は長距離競技において欠かせないテーマです。実際に推奨されるトレーニングなどあれば教えてください。

相川:心肺機能向上のためでも、走るだけだと同じ部位にストレスがかかります。運動能力による開きが出ない、水泳やバイクを取り入れると良いですね。中長距離走選手だと、クランチやプランクなどの自重トレーニングを行う選手も多いですが、それだと筋持久力は高いですが、最大筋力や絶対筋力が不足しがちになります。週に1~2回でいいので、シャフトを持ったウェイトトレーニングなどを行うと、より効果的だと思います。カラダ全体のパワーが上がって長距離でも高い力を引き出せるので、最大出力を上げるトレーニングは重要です。

――長距離選手特有の概念として、「体重は軽い方が良い」との意見も聞きます。実際にそうですか?

相川:やはり、軽さはある程度必要だと思います。軽いものを運ぶ方が、エネルギー量は少なくてすみますから。ただ軽ければいいのではなく、筋力量と見合っているかが重要です。体組成を計り、各選手にとって適切な体重や体脂肪を見つけてほしいですね。

――合宿などで強度の高い練習をするとき、意識して増やしたいメニューや取り入れたい栄養素はありますか?

仲山:合宿先の食事だけでは、栄養素を揃えるのが難しいときもあるので、自分で調整できるようになると良いですね。例えば、普段ご飯を250g食べていても、合宿先で小さいお茶碗で出てくると、食べているつもりでも普段よりご飯量が少なくなっていて、エネルギーが不足する場合もあります。カレーライスとサラダしかなくて、お肉が摂れないこともあるので、どんな食事であってもタンパク質が摂れるようにプロテインを携帯する。カルシウムが足りなければ、近くのコンビニにヨーグルトドリンクを買い出しに行くなど、強度が高い練習になっていることも考慮しながら、栄養素やエネルギー不足にならないよう気をつけたいですね。

――「太りたくない」あるいは「走るのが遅くなる」から食事を摂りたくない、という意見も女性選手が持ちやすい悩みだと思います。この点に関してご意見あれば教えてください。また、そういう選手にはどうアプローチしていますか?

仲山:食事の内容を考える際、選手ひとり一人が「競技生活を続けたい期間」についても考えてほしいです。例えば駅伝の大会に向けて、カラダを絞る方針で無理な減量を行ったとします。それだと学生時代は良い成績が収められても、その後社会人チームに入って故障して、競技寿命を縮める選手もたくさん見てきました。その後の競技生活に支障をきたしてもいいから今を優先したいのか? 長いスパンで競技と向き合い、カラダを大事にしていきたいのかによって目標は変わります。選手には、できれば後者の目標を持ってほしいと思っているので、適正な食事量を見つけられるように、長い期間をかけて選手に納得してもらうようにしています。

――強い選手はしっかり食べますよね。

仲山:その通りです。食べた分をエネルギーとして消費して、選手としてのカラダをしっかりつくるための練習ができていますね。食べないと練習の質が落ちるので、そのためにもしっかり食べて欲しいです。

「食べたら太る」「食べたら指導者に怒られる」と考えてしまう選手もいますが、食べることをマイナスに捉えず、「強くなるため」「カラダを作るため」に食べるという意識に切り替えてほしいと思います。

『前編』では、中長距離選手のコンディショニングの心構えやトレーニング方法、栄養補給のポイントなどをご紹介しました。
『後編』では、試合前後のコンディショニングや食事方法、一日に必要なエネルギー・栄養素をカバーする模範的な食事メニューを提案します。

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ストレングス&コンディショニングコーチ 相川貴裕さん

広島文化学園大学 人間健康学部 准教授
CSCS,NSCA-CPT,JSPO-AT

長年にわたり、広島県立世羅高等学校陸上競技部(全国高校駅伝優勝2回)やダイソー女子駅伝部で、女子長距離選手のケア・コンディショニングを担当している。また、日本ブラインドサッカー協会医事部や自身が代表を務めるA-pfeile広島BFCで視覚障害者アスリートのトレーナーをしながら、所属する広島文化学園大学で女子アスリートやパラアスリートの体力・トレーニングについての研究を行っている。

公認スポーツ栄養士 仲山七虹さん

公認スポーツ栄養士、管理栄養士

立命館大学大学院で女性アスリートに関する研究を実施。給食会社に入社し、スポーツ栄養事業の企画運営に関わったのち独立。現在は創価大学駅伝部の専属栄養士としてアスリートサポートに従事。選手一人ひとりに寄り添うパーソナルサポートを大切にしている。

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