[特別対談]水泳前編:疲れを溜めない。トレーニングだけでなく疲労回復までケアを

[特別対談]水泳前編:疲れを溜めない。トレーニングだけでなく疲労回復までケアを

夏が来ると、本格的な水泳シーズンに突入。特に競泳は、体重コントロールや必要な水分・エネルギー量の把握など、パフォーマンス発揮のためのコンディショニングが結果に大きく影響します。また目的を達成するために、時期によってトレーニング内容を変える“ピリオダイゼーション”が重要な競技です。

 

今回は、オリンピック選手の指導経験もある、ストレングス&コンディショニングコーチ 土黒秀則さんとコナミスポーツ株式会社の公認スポーツ栄養士 宮本和代さんにインタビュー。毎日のトレーニングや栄養摂取に最適なメニュー、試合に向けてパフォーマンスを最大化するための調整方法などを伺います。

[インタビュー]
ストレングス&コンディショニングコーチ 土黒秀則さん
コナミスポーツ株式会社 公認スポーツ栄養士 宮本和代さん

時期に合わせた計画的なトレーニングを

――夏になると、競泳の大会が多く行われます。
試合に向けた日常的なトレーニングでは、どのようなことを意識すると良いでしょうか?(例として大学生の女性、短距離、162cm 56kgの場合)

土黒:大学生の場合、年に一度の選手権とインカレに向けて日々コンディションを整えたり、トレーニングや練習を行ったりしているかと思います。トレーニングに関して言えば「ピリオダイゼーション」=「期分け」といって、【準備期】→【試合期】→【移行期】の3つの時期に分け、計画的にトレーニングを行っています。

まず、メインの試合日程が決まったら、それに向けて【準備期】を設定します。カラダ・心・技の状態を、一番良い状態、つまりピークパフォーマンスに仕上げていく期間ですね。前半は「一般的準備期」、後半は「専門的準備期」に分けてトレーニング内容を変えます。筋トレを例に説明すると、「一般的準備期」はスクワットやベンチプレスなど、一般的なトレーニングを。「専門的準備期」では、競泳種目の特性を考慮した内容に切り替える。スタートの飛び込み、ターンに必要なパワーを高めるためのジャンプトレーニングや、ウェイトリフティングの種目であるスナッチのような、パワー系の強化が中心になりますね。

他にはファンクショナルトレーニングといって、より競技動作に近づけた種目も行っていきます。このような準備期を経て、メインの試合のインカレに臨む【試合期】。そして、試合後の【移行期(積極的休養期間)】を迎える……という流れです。

――夏場は水分補給、冬場は体温調整などにも気を付ける必要があります。コンディショニングを適切に行うために重要なことを教えてください。

土黒:現役の大学生と関わって感じるのは、「ケア不足」ですね。私はトレーナーだけではなく、はり・きゅう師およびあん摩マッサージ指圧師の資格を持つ治療家でもあります。選手からカラダの調子が悪いと相談され、ケアを中心に行いトレーニングまで行きつかずに疲労回復だけで終わる、といったこともよくあります。

だから、日常的にカラダのケアをして欲しいですね。練習量に対して、きちんと回復を意識する。オリンピック選手のようなトップアスリートをサポートしていた際も、ケアが一番重要だなと感じていました。

――食事面ではどうでしょう?水中での運動はカラダを酷使しますが、日常的にはどんな部分に気を付けたらいいでしょうか。

宮本:一番大事なのは、“充実した練習を毎回最後までできるか”です。たんぱく質に気をとられて、炭水化物や穀物の摂取にムラが出てしまうことが原因で練習の途中でエネルギー不足を起こし、突然減速してしまうケースもあります。そうならないためにも、練習時間を中心に食事や補食の時間を計画的に組み立てることが大切です。

朝練の時間が早くて朝食を食べたくない時は練習前にエネルギーゼリーだけでも摂り、練習後に朝食を食べるなどの工夫をして、次の練習時間に備える。忙しい時間の中に食事や補食の時間を組み込むことが、充実した練習に繋がります。これができて初めて「もっと早く泳ぐためにはどうするか」を考える段階になるのだと思います。

――まずは基本からですね。例えば「夕飯は温かいものを選んだほうがいい」といったように、メニュー上はどんなことを心掛けると良いですか?

宮本:短距離の選手は長距離に比べ水中の練習は短い場合が多いですが、それでも水中でカラダが冷えて消化吸収能力が落ちる選手もいます。その場合、練習後の食事は消化の良いものや温かいスープやシチュー等がオススメです。

また、その選手が何を目標にしてカラダづくりをしているのか、コーチやトレーナーの意見も大切ですね。それによって、目標体重や目指す体格も決まります。いわゆる「準備期(トレーニング期)」でその目標に到達できるように計画し、減量が必要な場合は夕食のおかずで調整します。その場合は油が少なくあっさりとした鍋料理等がいいですね。

トレーニングに対して十分なリカバリーを心掛ける

――大学生年代の選手がトレーニングを行う際に、気を付けたいポイントを教えてください。

土黒:やはり、疲労回復を意識して欲しいです。トレーニングに対するリカバリーが足りていないと感じることが多々あって、疲労回復のためには、筋肉の再生やエネルギー・栄養補給を絡めて考えないと悪循環になるんです。

トップアスリートの場合は、リカバリーについても周囲のスタッフによってシステム化されています。しかし一人暮らしの大学生の場合、なかなか難しいですよね。朝食を抜いたり、コンビニ弁当で済ませたり。例えばコンビニ弁当だとしても、どんなお弁当を選ぶべきか、知識のある栄養士さんにアドバイスをもらったほうがいいと思います。

宮本:食べられなくなるほど疲れる原因は、練習前の食事や補食で必要なエネルギー量やビタミンなどの栄養素を摂取できていないためです。一日の食事の内容・量・タイミングを見直して欲しいと思っています。大学生の場合、生活が不規則になりがちなので、「次の練習でまた疲れないために、練習前にどうするか」を意識して欲しいですね。
そこが意識出来れば、練習後の食事が美味しく食べられるようになります。練習後の食事では出来るだけ主食・主菜・副菜・乳製品・果物を揃えてみてください。効率のよいリカバリーに繋がり、次の日のコンディションが変わるはずです。

土黒:あとは、睡眠時間の確保も大切です。寝る前のスマートフォンはやめて欲しいですね。寝る時間をきちんと決めて、その1~2時間前は電子機器を見ないなどルールを作ると良いと思います。また、夏場はシャワーだけで済ませる人もいますが、湯船に浸かると血流が促進されて、疲労回復に効果的です。

――トレーニング時には、十分な栄養も重要になります。競技特性に応じたオススメの食材はありますか?

宮本:泳ぐために必要なエネルギーを作るには、やっぱりお米を中心とした炭水化物が大切ですね。またエネルギー代謝に必要なビタミンB群、特にビタミンB1が必要不可欠です。オススメの食材は豚肉ですが、ビタミンB1はその他の肉や魚介類・卵などからも摂れるので、その意味でもたんぱく源になるおかずとごはんが毎食組み合わされていると良いですね。

水中の練習時間が長くなる時は、カルシウムと、カルシウムの吸収を良くするビタミンDも摂りたいです。選手がカルシウムを摂るには、乳製品は必須だと考えています。1日1回ではなく1日3回を目安にして欲しいですね。
ビタミンDは魚や卵、きのこ類に含まれていますが、ちょい足し食材としては、しらす干しが使いやすいと思っています。

また、高地トレーニングの予定がある場合は、事前に血液中のヘモグロビン値やフェリチン値を少しでも良い状態にするため、鉄分の多い食材と吸収を助けるビタミンCを一緒に食べることをオススメします。肉や魚にレモンをかけるとおいしさも増しますね。
高地トレーニングが始まったら、低気圧・低酸素のために心拍数が増加して利尿や脱水が起きやすくなるので水分補給がとても大切です。
湿度が低い場所の場合は皮膚からの脱水も考えられますので、環境に応じて1日の目安量を決めて、こまめに水分を摂ることをオススメします。

――水泳は特にカラダの柔軟性が大切な競技です。関節のケアで重要なポイントはありますか?

土黒:トレーニング面で言うと、「傷害の予防」と「パフォーマンスアップ」の2つを成り立たせる必要があります。柔らかすぎてもいけないし、硬すぎてもいけない。競泳選手は肩が柔らかいため肩の障害が多いので、そこでジョイント・バイ・ジョイント理論が参考になります。

アメリカの理学療法士のGray CookとストレングスコーチのMichael Boyleによって提唱されたアプローチのことで、関節の役割は、大きく分けるとモビリティ関節(可動性)とスタビリティ関節(安定性)の2種類に分けられます。頭を支える首(頸椎)の上の部分は可動性のあるモビリティ関節。それを支える首(頸椎)の下の部分が安定性のスタビリティ関節、さらに下が、モビリティ関節です。それが胸、腰、股関節、膝、足関節……と交互に配列されていきます。これらを考慮して柔軟性などを改善していくのがポイントになってきます。

――栄養素はどのように補助していくイメージでしょうか?

宮本:ケガの予防や回復の観点から言えば、出来るだけバランスの良い食事(主食・主菜・副菜・乳製品・果物)を毎食心掛けることが一番です。関節を支える筋肉という意味では、たんぱく質とビタミン・ミネラル類は大切ですね。食事のタイミングを合わせるのが難しい時、練習前後に摂りやすいものとして、プロテイン等のサプリメントもいいと思います。関節のケアと考えると、手軽で吸収が早いアミノ酸の活用も一つの方法です。

あとは、自分のカラダをきちんと把握することが重要。水中では陸上より多くのエネルギーを使うと考えていますが、選手によって消費量は様々。トレーニングの効果を出すためには、その見極めをするために公認スポーツ栄養士が必要だと思っています。
また、水中では意外と汗をかいているので、水分補給も重要です。泳ぎ始めと泳ぎ終わった後に体重を測り、1%を超えて体重が減っている場合は水分補給が足りていません。それが原因で練習の後半でバテることもあります。意外と泳ぐ前から水分が足りてない時もあるので、普段の生活からこまめな水分補給が大切ですね。

『前編』ではトレーニングや食生活など、日常生活で注意したい点をご紹介しました。
『後編』では実際の試合に向けた調整や成長段階に合わせたトレーニング、1日の必要なエネルギー・栄養素量をカバーする模範的な食事メニューを提案します。

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土黒秀則 ひじくろひでのり

土黒秀則 ひじくろひでのり

NSCA認定CSCS, CPT
はり師きゅう師あん摩マッサージ指圧師

実業団女子バスケットチーム専属ストレングス&コンディショニングコーチを経て国立スポーツ科学センターにて競泳日本代表選手などトップアスリートを指導する。現在は早稲田大学スポーツ科学部、スポーツ系専門学校の非常勤講師、また埼玉県のスポーツ推進パートナーとして陸上競技、ボクシング、空手形、射撃、クライミングなどの競技のトップ(プラチナ)アスリートのコンディショニングおよびメディカルサポートに関わっている。

宮本和代 みやもとかずよ

宮本和代 みやもとかずよ

コナミスポーツ株式会社
公認スポーツ栄養士・管理栄養士・健康運動指導士・食品保健指導士・ISAK認定国際身体計測技師(Lv1)・日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

(株)キャピタルチヨダスポーツ、国立健康・栄養研究所臨時職員を経て1996年(株)ピープル(現コナミスポーツ株式会社)入社。2001年より水泳競技部2003年より体操競技部の栄養管理を担当。歴代選手の栄養指導、海外合宿・試合帯同、食事寮運営等、ジュニア選手から社会人アスリート・保護者へのサポートを行ってきた。その選手の状況に合う実践しやすい提案を心掛けている。

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